2023年2月11日土曜日

大森一樹監督『暗くなるまで待てない!』のこと

【注記】以下の文章は、感想や批評ではなく、記録のために(備忘録として)書いたものです。

◆『暗くなるまで待てない!』を初めて観たのは、2001年、〈シネマ下北沢〉で開催された特集上映企画《アンダーグラウンド・アーカイブス 1958‐1976》(会期:5月12日~6月29日/【参考書籍】)のなかで、だった(私の鑑賞日は会期の終り頃の日程だったと思う。なお、この特集上映には足繁く通って多くの作品を鑑賞し、そこで監修者の平沢剛さんと知り合うことになった)。当然ながら、(のちに制作された音楽差し替え版ではなく)オリジナル版のフィルム上映である。平日午前中の上映回で、観客は私以外に数名いた(若めの客層だった)ように記憶している――私は後方の席に座っていて、私以外の観客は最前列にいたと思う。たしか、よく晴れた日だった。上映が始まって、最初は少し引いたスタンスで観ていたが、徐々にスクリーンの世界に引き込まれ、上映が終わった瞬間、私は感動のあまり放心状態で、しばらく席から立てなかった。とにかく作品そのものの得も言われぬ力に圧倒された。そして、大仰さと勝手な思い込みを承知で、「この映画は私ではないか」とさえ思った(思わされた)――ことはよく覚えている。それ以降、この作品は、私の人生において最も重要な・大切な・特別な、最も愛する映画作品となった。現在もそうだ。おそらくこれからもずっとその位置は変わらないと思う。
◆私が大森監督に直接コンタクトをとったのは、2008年の前半(おそらく3月22日〔土〕かと思われる)、大阪〈シネ・ヌーヴォ〉での『明るくなるまでこの恋を』の上映終了後だった。劇場入口前にいらした監督にご挨拶し、『暗くなるまで待てない!』の鑑賞体験と作品への想いを伝え、自らの拠点である京都で小さな上映企画を開催できたら、という構想をお話しした。その後、構想の実現のために準備を進め、当時代表を務めていた研究会〈「都市-文化-記憶」研究会〉の活動の一環として、『暗くなるまで待てない!』(オリジナル版)の上映と大森監督+村上知彦氏のトークという構成の企画を開催するに至った(2008年10月25日〔土〕14:00~17:00/於:立命館大学衣笠キャンパス洋洋館3階962号教室/http://www.arsvi.com/o/ucms.htm)。本当に文字通りこぢんまりとした企画で、いま思うと監督にも村上さんにも失礼だったかもしれないが、とにかく自分の主導で『暗くなるまで待てない!』を(DVD上映ではあるが)上映できて、お二人に直接お話を伺うことができた(トークの聞き手はもちろん私が務めた)という事実は、私にとってかけがえのない経験として、いまもある。
◆その次に大森監督とお会いしたのは、2010年10月17日(日)、川崎市読売ランド前駅近くのシネマバー〈ザ・グリソムギャング〉での、『暗くなるまで待てない!』+『夏子と、長いお別れ(ロンググッドバイ)』の上映と大森一樹監督+西村隆氏のトークショーで構成された企画(http://grissomgang.web.fc2.com/schedule1010.htm)に参加したときだった。その際の記録・感想は当日の夜にまとめてTwitterに書いた。そのうちいくつかを以下に抜粋してみる。
◇“『暗くなるまで待てない!』、これで観たのは6回目(オリジナル版では3回目)になるのかな。それでも、これまでと同じように、観ていて何度も泣きそうになりました。”
◇“『夏子と、長いお別れ(ロンググッドバイ)』は、死ぬまで観れないかもなーと覚悟していた作品。想像していたのとはまったく違ったけれど、おもしろかったし、良い作品でした。夏子さんだけでなく、南浮泰造さん・村上知彦さんの魅力的なパーソナリティーがかなり前面に出ているところが見どころ。”
◇“2時間にわたる、大森一樹監督×西村隆氏(映画プロデューサー)のトークショー、本当におもしろかったです! かなり貴重なお話が次々と。特に西村さん個人に関するエピソードはどれも「ホントに!?」というような豪快なものばかりで、しかしご当人は実に飄々となさっているところがすごいなーと。”
◇“今日の大森一樹監督×西村隆氏トークで、『暗くなるまで待てない!』がどれだけ多くの人の人生を(どのように)狂わせたのか、よくわかりました。私もそのひとり、なのかなー。そうだとうれしいな。”
◇“きっと、『夏子~』は『夏子~』で、小編ながら、『暗くなるまで待てない!』と同様に、観れば観るほど味わい深い作品なのに違いない。大森監督が「いまになって観るとすごくおもしろい」と話していた意味がなんとなくわかる。”
そして、Twitterにはなぜか書いていなかったが、このときは、まったくの偶然ながら、大森監督の隣の席(たしか最後列の中央付近)で2作品を鑑賞したのだった。もちろん、これも忘れ難い大切な体験/記憶となった。
◆大森監督に最後にお会いしたのは、おそらく2013年前後のことだったかと思う。JR元町駅から大丸方面へ鯉川筋を下りていく途中で、同じ歩道の正面から大森監督が上がってこられた。ご挨拶したあと、ちょうど配布のために持ち歩いていた自分の関係する企画のチラシをお渡しした。すると監督も、「それじゃあ私のも」と言って、チラシを数枚手渡してくださった。残念ながら、何のチラシだったかは忘れてしまって、思い出せない。時間にしてほんの1分弱程度の、偶然の再会だった。
◆さて、これを書いているいまから2週間後の2023年2月25日(土)・26日(日)、〈神戸映画資料館〉で、《新長田映画講座:神戸の映画/神戸の映画監督 大森一樹を語る》という企画が開催される(https://kobe-eiga.net/programs/1019/)。『暗くなるまで待てない!』+『夏子と、長いお別れ(ロンググッドバイ)』の上映と、白羽弥仁監督+田中晋平氏によるトークで構成される企画である。ここで私はこの2作品を、12年半ぶりに鑑賞することになる。はたして鑑賞後にどんな感情が去来するのか、いまは想像がつかない。ただ、どんなに時が流れても、どんなに環境が変わっても、私という存在はずっと『暗くなるまで待てない!』と共にある、ということだけは変わらないはずだ。まずはそれを確認できれば、と思う。

2023年2月11日
村上 潔[Kiyoshi Murakami]